フランス通信(174 卯月                 Paris,le 17/04/2020

 

*4月に( Au mois d ‘ AVRIL ) : 柔らかな若葉が生え揃った所為でしょうか、時折の木々を渡る風の音が変わったように聞こえます。春の盛りに暖かな陽光を浴び、今と咲き誇る花々を訪ねて歩き回りたいところですが、新コロナウイールスによる新型インフルエンザの急激な流行に、感染拡大を防ぐ為の外出禁止令により、3月中旬より1ヶ月の間は家から1歩も外に出ずに大人しくしています。しかし感染の勢いは衰えることなく、復活祭後の413日にマクロン大統領の4回目の演説(l’ allocution)により更に511日迄外出が厳しく規制されることとなり、2ヶ月間の在宅を余儀なくされました。ですから、今冬は雪も降らず比較的暖かかった上に、本来の怠惰な気持ちが手伝って、家の中に入れてやらずに放っておいたゼラニウムが、春を知り、驚くべき力で次々に紅い花を咲かせ、又アパートの庭の隅の大きな2本のマロニエの木に、いつもと変わりなく葉が繁り、沢山の白い花が咲いているのが、大いに慰めとなっています。こうして嘗てない緊急事態の時に限って明るく暖かな好天が続き、我慢できずに禁を冒してセーヌ河岸、公園や森に出てくる人が多く、規制は益々厳しいものとなってきました。散歩は生活の大切な一部、その為に公園、広場、緑の並木道、森林が多いわけですから、自由に歩けないのは大変なことです。カフェ、レストラン、映画館、劇場、美術館、等々は閉鎖のまま、スポーツもサッカーなどの試合も無く、他にこれといった催事もありませんから、今号は « çà et là »「サ・エ・ラ」と題して、先号に続き日々の記録と色々なエピソード等を記述したいと思います。ご了解よろしくお願い致します。

 

*「サ・エ・ラ」“ コロナウイールスの脅威”« la crise du Coronavirus COVID-19 » : 

 

Les mesures du confinement 外出禁止令、外出規制令、自宅待機令、自宅隔離令、、、と訳すのでしょうか、感染拡大を防ぐ為に316日から外出や人が集まることなどが禁止され、その意味からパン屋、食料品店、薬局など日用必需品を扱う商店以外、カフェ、レストラン、映画館、劇場、理髪・美容院、一般商店、公園や墓地も閉鎖されました。教会やモスクは開いていますが集会は禁止ですから儀式は出来ず、結婚式も葬儀すら出来ません。食料品、薬品など必要最低限の買い物は勿論許されますが、人と人とが1メートル間隔で行列に並んだり、、、止む無い外出には規定の証明書(Attestation de déplacement)を作成 して、理由書、例えば診察予約券、医薬処方箋、等と共に携行が義務付けられました。健康維持の為の散歩は犬の散歩も含め1人で1キロ以内、1時間以内の範囲で、と細かく規定されています。それ迄は「愛玩動物の散歩」となっていたものですから、猫ならまだしもウサギやアヒル、中にはロバや山羊を自分の愛玩動物だと連れて出てきた人もあり、その後に「犬」となりました。お上に対する抵抗は相変らずです。マスクは大いに不足していますので、病院で働く人達が優先ですから、まだまだ一般の人の手には入りませんので義務付けられず、各自で工夫して作る様に指導しています。これには派手な模様の布地や、下着や靴下、などからの工夫が紹介されていますが、本人は得意であっても果たして効果があるのか疑問を感じるものも少なくありません。323日治療に直接かかわっていた医師2名が感染して亡くなりました。患者数は2万人に達し、死者が1000人を超えました。地域により呼吸装置、蘇生装置を備えて対応できる病院に患者が溢れ出した為、軍隊が出て、草地にテント張りの野戦病院を設置するなどして応急処置、、翌日には患者も更に2000人増え、死者も100人多くなり、正に大量殺人(l’ hécatombe)の様相を呈しました。しかしこの辺りで治療の甲斐あって退院する人も多くなってきました。326日、現場の看護婦など不休の疲れが激しく、医学生、看護学校生、引退した医師、、、に広く呼びかけ、手助けを求めました。同時にベッドや機器に余裕のある他の地方の病院への重症患者の移送が、軍用輸送機、ヘリコプター、TGV 列車を一部改造して行われました。327日入院患者数は33000余人、死者2000人を超えました。一方クロロキーヌ(Chloroquine)という薬が治療に効果があるとの話が広がり、解熱剤や消炎剤を併用しては無意味だが、、、まことしやかな話に市販のプラケニル錠が直ちに薬局から姿を消し、早速に偽物がネット販売に登場、、、検問に当たる警察官に化けて罰金を取り立てるニセ警官、、、ウイルスの様に悪者がはびこります。呼吸機器とマスクは中国から大量に輸入していますが、パリに飛行機が着いて、沢山の段ボール箱が降ろされ、税関上屋に運ばれる途中で強盗に襲われ、、、今では憲兵隊の厳重警戒の下で運送が行われています。しかし車の通行が激減、ガランとしたパリの街、空気が澄んで青空が清々しい毎日、何と40年ぶりの綺麗な空気なのだそうですが、スピード違反が激増しだそうです。331日患者数が5万人を超え、死者3500人を数えました。

 

4月に入って、退院する人の数も増えましたが、患者数も重症者6000人を含め57000人に増え、死者が4000人、それ迄高齢者に多かった死者に初めて16才の未成年者が出ました。軍隊を始め全国一体となっての救援活動が展開され、さすがに国民一体となって外出禁止令に従うようになりました。患者数は多少なりとも減少の傾向が見えてきましたが、死者の数は増えるばかり、46日には9000人を超えました。

 

特に注目されたのは医療付き高齢者施設(EHPAD)で亡くなる人がその中2500人にも上ったことです。

 

こうした施設における普段の活動に早速調査が為されたことは言うまでもありません。49日、入院患者数は急激に減って3万人程度に落ち着きましたが、死者の数は1万人に達し、その中担当医が更に3名死亡、高齢者施設で亡くなった数が3200人となりました。パリ地区の場合には、流通が鈍くなったランジスの中央市場の野菜果物保存庫が軽く冷房してあるので、全ての遺体をここに運んで収容、霊安所にしました。2003年の酷暑の時も同様でした。家族はまずここに行き面会、その後埋葬となるのですが、遺族から保管料、面会料を徴収して大きな問題となりました。410日入院患者31000余人(重症者7000人)死者13000人、薬局には「マスク、体温計、アルコール消毒液売り切れ」の貼り紙が出ました。「外出禁止」で勤め人は家でテレ・ワーク、子供も家でテレ学習、、、では日給で働く人達はどうすればよいのでしょうか?毎日働かねば食べられないのです。その為地域によっては減便された電車・バスは満員、家に残された子供達はPCやスマホ、ゲームなど機器を持たず、喧嘩や盗みに走っています。パリ地区で最も多くの患者が出ているセーヌ・サン・ドニ市が正にそうなのです。幾つかの慈善団体が出て援助していますが、やはりその力には限りがあります。一方では、夫婦、子共が毎日、一日中一緒に居るもので、かえって夫婦喧嘩が絶えず、子供虐めが多い、という事態も起こっています。「私達こうして過ごしています、、、」と得意顔でTVルポに出てくる人もあるのですが、毎日こんなことをして、さていつまで続くのやら、、、、と疑問なものがあります。家族関係や心理的、社会的にデメリットの方が時間と共に大きくなって、国民のストレスは増大するばかり、という見方もありました。 非常事で外出規制が布かれていると云うのに、復活祭のヴァカンスの季節だからと出掛け、途中の検問に引っ掛かって戻ってくる人もあり、市町村によっては、商売は上がったりだが、病気は怖い、と他所者の滞在を拒否している所もあります。411日、入院患者数も死者の数も動かず、やや希望的となり、外出規制を緩める話が出始めました。しかし学校は大学も含め9月の新学年まで休校、高齢者は年末まで外出禁止、と云ことでした。外出規制がこのまま続くことにより経済危機の影響で死ぬ人が、コロナで死ぬ人よりも多くなるのでは、という説が経済紙に載りました。外出禁止令解除後にもっと働かなければならないからだ、とのことです。412日はキリストの復活を祝う大祝日、春も盛りに目出度い日であるはずが今年はミサもなく、ところがパリ5区の聖二コラ教会は信徒を集めて秘かにミサを挙げたのですが、不用意にもオルガンを演奏した為近所に知られ、訴えられて、神父さんは重い罰金を取られました。しかし参列していた信徒は全員無罪放免、取締官も信徒だったから?と話題です。好天に日中の人出が多くなったパリ市は日中10時―19時のジョギングを禁じましたが、日が長くなって19時はまだまだ明るいので、変わらぬ人出が見られ、まるで鬼ごっこです。何時の頃からか2000、アパートのテラスに人が出て、コロナ患者の為に献身的に尽力する医師や看護婦など医療関係者に感謝と激励を送るために大きな拍手をする様になりました。その行為自体は好いのですが、中には鉄の手すりをガンガンたたき、鍋釜を持ちだして叩き、下手な楽器を奏で、嬌声を発し、叫び、床を踏み鳴らす等“やり過ぎ”があり、近所迷惑になっているケースも見られ、それを知った医療関係者達は、気持ちは嬉しいが、応援してくれるなら静かに家に居て欲しい« Restez chez vous » « Restez à la maison »と繰り返しています。営業が出来なくなったレストランの中には、毎日料理を作って病院に届け、看護婦や医師たちを激励している奇特なシェフも居ます。向い側のアパートのバルコンで5m位の所を毎日行ったり来たりしている高齢のご婦人の姿、半裸で食事を楽しんでいる夫婦の姿、人さまざまに感じます。患者の8割は中年以上の男性、女性は先天免疫力が強いから、という医師の説が紹介されました。

 

413日夕刻2000のニュースの時間にマクロン大統領の演説がありました。最も関心のあった「外出禁止令」は更に1ヶ月延期して511日迄とする。学校は大学を除き託児所から高校迄511日より段階的に開校する。カフェ、レストラン、劇場、映画館、美術館、等は7月中旬迄閉鎖、その後の様子次第で検討する。高齢者、身障者、等の外出規制は継続する、といった内容でしたが、即刻“学校は外出規制令解除から徐々に開校と早めたが、親の仕事再開を優先したもので、学校を子供の預かり所とみなしている”との批判が多く、内容的には勉強不足で支離滅裂との厳しい批評が上がりました。この日現在の入院患者数は32300人、その中重症患者6730人、これ迄の死者合計は15730人となっています。各種アレルギー体質、循環器系の病気、糖尿病、肥満症などは特に要注意とのこと。一時は意識不明に陥り、蘇生装置の下で治療を受け、味覚や嗅覚はやや衰えたが、退院にこぎつけた人達へのインタビューが私達を力づけて呉れます。415日、原子力空母“C・ドゴール”艦内1800人乗り組みの中40人が発病、ミッション中途でツーロンに急ぎ帰港、検疫の結果600余人が陽性と判明しました。一方では医療活動に日々努める人達に対して政府は既定の保証の他に各人1500ユーロから2000ユーロの報奨金の支払いを発表しました。最近のテレビは生放送はニュースだけ、あとは映画ばかり、既に放映済みのフィルムを何回も回したり、お陰様で結構な古く懐かしい映画を見ることもあります:”冒険者たち“(アラン・ドロン、リノ・ベンチュラ)、”赤い灯をつけるな“(ジャン・ギャバン、アニー・ジラルド)、”上流社会“(ビング・クロスビー、グレース・ケリー、フランク・シナトラ)、、、、食料もまあまあにお陰様で元気にしております。

 

*コロナ騒動 : 「友が云う「君」という字にコロナ居る」 (朗)

 

*外出禁止令 :  「無口でも 居ると居ないで大違い」  (眞)

 

*時の心得  :  「年老いて 風邪には注意怠らず」   (寛)

 

2020417Saint Anicet : 日の出0655・日の入1945 天気・パリ朝夕12/日中25℃晴天、ニース11/19℃曇天、ストラスブール8/26℃晴天、皆様のご無事な毎日を祈っております。菅 佳夫